歩行近位監視から自立を目指すに当たって考えること
皆さんは安静度を変更するに当たって、どのようなことに着目し練習をしているでしょうか?
カンファレンスで「この人は見守りレベルです。」という方がどうしたら自立していけるのでしょうか?
そんな点を踏まえて今回は歩行自立を目指すにあたり転倒をどう防ぐのかということをお伝えできたらなと考えております。
歩行近位監視まで
この状態は筋力やストレッチ、歩行訓練で持っていけます。
練習あるのみです。
遠位監視
また近位監視ではなく遠位監視となる場合は次のことが言えると思います。
「危険察知能力がない」
ということです。
認知機能が低下している、目が非常に悪い、聴覚が悪い(音を集中して聞き続けられない)方が対象となるかと思いますが、遠位監視をするのであれば近位監視でよくて、意味がないという人もいます。
目次:
近位監視から自立を目指す時
では近位監視から自立歩行を目指す時どうしていくべきでしょうか?
近位監視で在宅に帰ることほど怖いことはありません。
介護者負担もかかります。移動する時にはそばにいないといけません。
また転倒のリスクも高いです。
近位監視から自立を目指すに当たって必要なことは
「動的な姿勢制御」「環境からの変更要求」
という2つのことが必要になってきます。
動的な姿勢制御
バランスを崩したところから持ってこれる理由とは。
バランスを崩した時になぜ転ばないのか?
そもそも支持基底面内に重心がないと転倒するのか?
動きの中では重心はほとんど支持基底面内にはありません。
両脚支持期の時しかありません。
ではなぜバランスを崩した時に身体を持ってこれるのでしょうか?
つまづきやふらつきは転倒の原因ではなく誘因です。
転倒を回避するためには、転倒回避のメカニズムが作動しなくてはなりません。
そのメカニズムは「大局的姿勢安定化制御」と言われ、大きく分けると3つあります。
大局的姿勢安定化制御
(ロボット工学的理論)
①床反力制御
足関節戦略に近い機能です。
前庭脊髄路で足関節戦略は作用されています。
前庭脊髄路はCPGよりも優先されます。
訓練方法の一例を紹介します。
・踵つま先踵立ち
随意性な運動ではありますが、足関節戦略を使うためには必要な練習となってきます。
・フォワードランジ
足の接地位置を変えながら接地してもらいます。
この時「体幹が前に倒れないように」「一発で止めれるように」意識して実施していきます。
・板(ディジョックボード)でのスクワット
足関節を独立させながら実施していきます。板がないときはスクワットを実施する中で重心をつま先や踵に移動することで同様の練習をすることができます。
このような床反力の制御が困難なのが「片麻痺の患者さん」です。
そんな時代償的に使用できる方法として
「杖を用いて(長くてストック型の方がいい)床反力を制御する」ことです。
杖を用いることで床反力作用点を前後させることができます。
T字杖は体重を逃す目的で使用することが一般的かもしれませんが、床反力を制御する目的で使用していきます。
②目標・モデルZMP制御
ZMP:Zero Moment Point(ロボット工学)
身体の総慣性力が床と交わる点をZMPと呼びます。こうなっていればバランスが取れるということになります。
「どこに足を持って来ればバランスを取れるのか」という場所を目標ZMPと言います。
(予測的姿勢制御に近いです。)
目標ZMPの位置は歩行速度によって変化します。これは自動制御によって行われます。一般の人はボディスキーマとして持っています。
高齢者は昔のボディスキーマで動きます。また子供の運動会で転んでしまう親は昔の足の回転速度と同じような足の運びをすることで想像よりも近くにZMPがきてしまい体幹が前方へ回転し転んでしまうことになります。
目標ZMPが総慣性力より手前であった時体幹が回転して転倒しそうになります。
そんな時に股関節伸展筋を使い上体を加速させることで転倒を防ぎます。
(股関節戦略に近いけど違います。)
つまづくと一瞬速度が上げる制御です。
この制御も前庭脊髄路で行なっています。
立脚後期が作れないと、この制御は使えなくなります。
杖はぽんっ突き上げるように(スキーのように)使います。
③着地位置・着地タイミング制御
姿勢を立ち直るためには2歩必要となります。
3歩目で制御できない人は転倒しやすいでしょう。
目標ZMPが近く転倒しそうになった時に、もう一方の足の着地の位置やタイミングを修正することで、転倒を防ぐことができます。
+α 眼球と頭部の動き
余談として姿勢制御をするに当たって頭部の動きは重要になります。
眼球と頚部の動きに着目することで、バランスを崩す要因がわかります。
歩行時には立脚足とは逆の方向に頭部が動きます。
重心が高くなった時には頭部が下に動きます。
この逆を行うと、ワイドベース歩行となります。これから言えることはより多くの制御が必要となってくるということです。
前庭動眼反射
この頚部と眼球の動きは「前庭動眼反射」と言います。
どこを見るかには変わりありません。近くでも遠くでも頭部の動きは変わりがないです。
「近くを見る時は頸部と眼球は同じ方向」「遠くを見る時は頸部と眼球は逆の方向」
というように眼球の動きが変わってきます。
例として
同じ1点を見ながら、左右頸部回旋する時側屈が入ることがあります。
その側の後頭下筋が過緊張になっているので、そこをリリースしてから練習することが大切になってきます。
環境からの変更要求
予測的に歩行状態を自在に変更できる必要性。
次に「環境からの変更要求」を実現できることが大切となってきます。
できないパターンに分けて具体的な方法を交えお伝えします。
一定の速度でしか歩けない
速度を自動制御することが必要となってきます。
そのため合図があったら「歩行スピード・歩幅」を変えてください。
というように歩行速度を変えていき自身の中でのボディスキーマを構築していくことが大切です。
つたい歩きができない
運動機能としてすでに可能であるにも関わらず、伝い歩きができないという方はどうしていくことが良いのでしょうか。
ボディイメージの構築
つかまり歩きの人は環境がつかまる位置を決めてしまいます。
なのでその環境をどう作るのかが大切になってきます。
そのため訓練場面でもつかまる位置を決定した上での練習方法が重要です。
では、どのようなことをしたらいいのでしょうか?
①平行棒内でのつかまり位置の評価
②椅子などでランダムに作る
また歩ける方であれば
「そこまで(10m先)何秒で行ってください」
のような練習方法もあります。
大脳皮質ー基底核ループを使用した練習
コーナーが曲がれない
日常生活で直線を歩くのとコーナリングの比を比べた研究では
「日常生活で直線は20%しか歩いていない」
という報告があります。
そのためコーナリングをできないと日常生活で困ることが多くなります。
その練習方法としてあげられるのが旋回・8の字歩行です。
旋回・8の字歩行
具体的な方法です。まず下肢の前に上肢でリズムを作れるか確認します。
その後リズムを下肢で行なっていきます。
①手拍子を用いて、片方を大きくしリズムは均等に実施
②コーナリング練習
一定のリズムでポールを回ります。
人がいる場合は腕組み⇨手繋ぎー紐を持って楽しく行います。(デイなど)
またこれを表している評価がTUGです。
TUGで歩く時に高齢者の方は歩き始めから直進に進み、減速してコーナーを回ります。その後直進して戻ってきて、180度回転して着座します。この「減速をしっかりコーナーでできること」「着座をしっかり行えること」ができないと転倒リスクは高まります。
健常者は次のように行います。
①膨らんで歩きはじめる
②着座の時には斜めに入る
ということは、
椅子に対して座る練習をしなければいけないです。
バックステップターンができないといけないです。
ということになります。
うまく椅子に座れない
移乗動作時や日常生活で行う着座は垂直な着座をほとんど使用しません。トイレの時くらいです。
そのため環境に即した練習を行います。
着座の練習方法
①方向45度向いて移乗訓練
(目標に対してお尻を向ける)
誘導方向も45度方向にすることで立った時旋回しているようにします。
これができると、自分で行なった時にも同様に旋回でき移乗できるようになります。
②行列エクササイズ
お尻を横へずれる練習を行なっていきます。
転倒予防教室などでは椅子で円を作ってみんなで回るようなこともします。
③リーチを用いてずらし横エクササイズ
・徒手的誘導で手の回内外で移動してもらうようにします。
(日本舞踊のように)
・ポールなどの棒を持ってお尻を横へずらす運動します。
終わりに
自宅退院で一人で行動しなければいけない方は多いです。
そんなかたを近位監視のレベルで帰宅させてしまっては介助者の負担が大きくなり、転倒リスクも大きくなります。
これを防ぐためにも「動的な姿勢制御」や「環境からの変更要求」は大切になってきます。
ぜひ臨床で試してみてください。効果を実感できると思います。